前田建設工業で長年建築設計に携わってきた綱川氏。30年以上のキャリアを持ちながら、その視線は常に「建築の未来」や「組織のあり方」に向けられている。
業界の慣習にとらわれず、常に新しい実験的な取り組みを試みたり、時には競合他社へ自ら技術を学びに行ったりと、その行動力で様々な建築を形にしてきた。近年の「働き方改革」や「生産性向上」という至上命題に対し、クリエイティブの本質をどう守り抜くのか。そして、社外の才能と手を取り合うことで生まれる新しい建築の形とは。
ガンダムパビリオンから地方の古民家再生まで、多岐にわたる建築を設計する綱川氏の哲学に迫った。
ーー綱川さんは昔からガンダムがお好きで、建築業界でも取り入れてもよさそうと考えるアニメーションの文化があるとのこと。
そうですね。ずっと感じていることがあって、それは「建築もアニメーションのようなエンドロール文化を取り入れられないか」ということなんです。アニメの最後には長いエンドロールが流れますよね。そこにはメインの監督だけでなく、作画をした人、背景を描いた人、色を塗った人、数多くのスタジオの名前が並び、全員が1つの作品を共有していることが可視化されています。
建築も、実際にはものすごい数の人間や組織が関わり、情熱を注いでいるはずです。なのに、外からは「誰がやったのか」がほとんど見えない。特に私たちのようなゼネコン組織の中で設計をしていると、個人の顔や雑味が消されて、良くも悪くも均質化された「会社の成果」として処理される。もっと多様な才能が入り混じって、それがちゃんと表に出てくるような文化になってもいいんじゃないか、と個人的には考えたりもします。
もちろん、大規模なプロジェクトでは JV(ジョイントベンチャー)という形がありますが、あれは技術の平準化やリスク分散などを目的としたもので政治的な色が強いです。もっと「自由で面白い」協業があっていいと思います。
ーーゼネコンという大きな母体で設計することには、メリットだけでなく難しさもあるのでしょうか。
今の私たちが感じる課題感や今後のリスクとしては、ゼネコンの人材は能力やスキルがどうしても均一化しやすいという点があるかなと思っています。そもそも入社試験の段階から「建築畑」で育ってきた、同じようなバックグラウンドを持つ人たちが集まるわけですから。
でも、今の時代に求められているのは、組織の中だけでは補えない「多様性」ではないかと思っています。誰かに代えがたい「何か」を持っている人。そういう突出した才能と、僕たちゼネコンがどう混ざり合えるか。それを常に考えていたりします。
ーー綱川さんは、万博の「ガンダムパビリオン」の設計にも深く関わっておられたとのこと。あのプロジェクトも、非常に特殊な進め方だったとか。
ガンダムに関してはもう、「好き」を仕事にしたご褒美みたいなものですね(笑)。
打ち合わせがまた面白くて。参加メンバーがみんなガンダムの理解度が高すぎて「空間のイメージを作中の○○みたいな」で通じてしまう(笑)。でも、その「熱量」が、あの特殊な空間を作り上げる原動力になりました。
2025年大坂・関西万博「GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION」
ーー昨今、建設業界でも働き方改革、いわゆる「2024年問題」が大きな転換点となりました。設計現場への影響はいかがですか?
まさに死活問題です。今はもう、どこへ行っても「生産性向上」という言葉が念仏のように唱えられています。残業抑制はもちろんですし、仕事のオンとオフを完全に切り分けなければならない。
ただ、ここでジレンマが生じるんです。建築設計という仕事は、圧倒的にクリエイティブな発想が求められるもの。ふとした瞬間に良いアイデアが浮かんだり、無数のケーススタディを積み重ねた先に「これだ!」という答えが見つかったりする。それを杓子定規に時間で区切ることに、少なからずストレスを感じる部分が、私個人としてはあったりします。
私が若かった頃はそれこそ会社に寝泊まりして、残業代も青天井で仕事に没頭できました。今の時代ならとんでもない話ですし、それが絶対的に良いことだったとも思ってはいません。ただ、若者が仕事に触れる時間が物理的に減ることで、設計者としての成長スピードは遅くなるのではないかという懸念があるのは事実ですね。
ーー成長のスピードをどう担保するか。それは多くの組織が抱える課題ですね。
今はネットやAIの力もありますから、知識を得る手段は増えました。でも、知識と経験はまた別物なんですよね。
私が担当している業務は特に、いわゆる「定型的な仕事」が少ない。建築設計の仕事は、例えばデベロッパーさんが建てるマンションやテナントビルのように過去の実績やノウハウがそのまま通用する仕事ばかりではありません。万博のパビリオンのような特殊な案件は前例が通用しなくて困るわけです(笑)。
でも、それが仕事の新鮮さとおもしろさでもあります。毎回知らないことが出てくる。だからこそ私たちのような建築士がいるし、専門的な知識や実績を持つ「外部の力」を積極的に借りる必要もあると思っています。
ーー綱川さんは、かなり早い段階からBIMを取り入れられていたと伺いました。
2000年頃ですね。当時はまだBIMという言葉も一般的ではなく3DオブジェクトCADと呼ばれていたりもしましたが、3次元で設計を始めていました。あの頃の自分は、今思うと大胆でしたよ。今ほど情報が入手しやすい時代ではなく、競合であるはずのあるスーパーゼネコンが3次元設計で色々と試しているということを何かのメディアで知って、「その技術、私にも教えてください」と直談判しに行ったんです。今思うと会社に了解も得ず大胆ですよね。
でも先方の担当の方はそこで快く話を聞いてくれて、その方とは今でも仲良くさせていただいています。あの時、「自社だけで何でもできる」と思わないことの大切さを学びました。自分たちの足りない部分を認め、知識を持っている人に聞きに行く。その姿勢は今も変わりませんし、今思うとアーキタッグの思想に通ずる部分もあるかもしれないですね。
ーー最近でも、新しく特殊なプロジェクトがあると外部の専門家を訪ねるそうですね。
最近だと、昭和初期の住宅を移築するプロジェクトがありました。国の登録有形文化財なので、歴史的背景を含めて非常にデリケートな扱いが求められます。
照明器具一つとっても、当時は手作業で作られた特殊なもの。最初は現在の技術で当時の形状を再現できればいいと考えたのですが、建築史の先生に相談したところ、「当時のやり方を深掘りしなければダメだ」と。そこから復元を専門とする会社を探し出し、相談に行きました。
また、廃業した山奥のホテルを再生させるプロジェクトでは、再生の経験が豊富な会社に「どうしたらいいですか?」というレベルから聞きに行って十分な情報をそろえてから臨みました。この業界に30年以上いても、未だに「わからないこと」がいっぱい出てくる。それがこの仕事の面白さであり、常に外部の知恵を求める理由です。
ーー今回アーキタッグを通じて外部の設計パートナーと協業されましたが、まずは利用の経緯から教えてください。
岐阜県でのゲストハウス案件がきっかけです。地産地消を目指し、岐阜の木材をふんだんに使った大規模な木造建築のプロジェクトでした。
僕は東京にいるので、担当の自分が岐阜の現場に通い詰めるのはどうしても少し難しい状況でした。ただこのプロジェクトは非常に特殊で、設計者のしっかりとしたコントロールや現場との密なコミュニケーションが必須だった。そこでアーキタッグに頼んで、名古屋を拠点とするパートナー建築士を紹介していただいたんです。
最初は正直、アーキタッグを利用することの不安もゼロではありませんでした。初めて仕事をする方ですし、アーキタッグのような設計事務所のプラットフォームは今まで業界になかったわけですし。
しかし、結果的に紹介してくださったパートナーさんは、私の期待を遥かに超える仕事をしてくれました。本当に相談してよかったと思っています。
ーー具体的にどのような点が良かったのでしょうか。
紹介していただいたのは若手の建築士ですが、組織設計事務所での実務経験を経て独立された方だったので、僕たちの「手の内」というか、実務の進め方を熟知されていましたね。コミュニケーションがとにかくスムーズでした。
私は彼に「下請けとしてではなく、パートナーとして、お客様の前面に立って提案もしていただきたい」と伝えました。彼は現場事務所やクライアントからも非常に頼られる存在になり、厚い信頼を勝ち得た。僕が行けない頻度で現場に通ってくれて、きめ細かくフォローしてくれたおかげで、建築プロジェクトとしても本質的なクオリティがしっかりと担保されました。
これは僕にとって一つの「実験」でもあったんです。ゼネコンという大きな組織の中に、外部の才能が混ざり合うことで、より美味しい料理が出せるんじゃないか。その手応えを強く感じたプロジェクトでしたね。
ーー長年BIMなどにも携わってこられた綱川さんから見て、今後AIやデジタル技術によって、設計の現場はどう変わっていくとお考えですか。
あと数年で、仕事のやり方は劇的に変わるでしょうね。
僕は今、生成 AI をどう実務にソフトランディングさせるかということを常に考えて仕事をしています。図面を引く手前の「情報の整理」や「ビジュアライズ」に関しては、AIを使うことで驚くほど効率化できる実感があります。
かつては「CG チーム」が力業で作っていたパースも、今はAIでかなりのレベルまで生成できてしまう。そうなると、僕たちの役割は「いかに的確なプロンプト(指示)を出せるか」に移っていきます。
一方で、地方の現場に行くと、まだまだデジタル化のギャップを感じることも多いです。いくら設計側がBIMでデータを作っても、それを受け取る工場や作業所が使いこなせなければ、生産性は上がりません。この四半世紀、BIMに触れてきましたが、普及には思ったより時間がかかっていると思います。
ーーそのギャップをどう埋め、付加価値を出していくかが鍵なのでしょうか。
効率化や省力化は進めるべきですが、それが「幸せ」に直結するかは別問題です。
僕自身、趣味でガンプラを作りますが、3Dプリンターで完成品が出てきても嬉しくない。自分で組み立てる「過程」に意義を感じる。建築も同じで、最後は人の手による丁寧な仕事、そして多様な才能がぶつかり合って生まれる「雑味」こそが、魅力になるのだと思っています。
僕がいつか現役を退くまでに、次の世代へ「新しい働き方のバトン」を渡したい。
組織の壁を越えて、個人や小さな事務所の才能がもっと自由に、大きなプロジェクトに関われる仕組み。そして、均質化された集団ではなく、個々の顔が見える「エンドロールのある建築」。
これからも、AIのような先端技術と、古民家再生のような伝統的な技術の両方に首を突っ込みながら、新しい建築のあり方を模索し続けたいと思っています。
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