パブリックに移り変わる建築の流れと、建築家が再び結集する時代へ
国内外において数多くの建築を手がける APOLLO 代表・黒崎 敏氏に、建築業界の現在地や今後の流れについてインタビューを行った。ハイクラス・ラグジュアリーの最前線で設計するアーキテクトが感じるトレンドの変化と建築業界の課題とは?
APOLLO 代表・黒崎 敏氏
ーーこれまでの APOLLO の特徴や、今後の方向性について教えてください。
「22 年前の 2000 年に建築家として独立し、APOLLO はこれまでに 200 棟以上の建築を設計してきました。プライベートレジデンスを中心に、最近では富裕層を対象にしたラグジュアリー建築を数多く手がけています。また、建築設計にとどまらず、インテリアや事業企画、商品開発、ブランディングまで手がけるグループ会社もつくり、様々なクライアントの案件やニーズに対し、最適なソリューションを提供できるチーム体制を構築しています」
「APOLLO で現在進行している約 40 のプロジェクトのほとんどは『ラグジュアリー』の専門領域であり、幅広い知見と経験が要求されるものばかりです。レジデンスやヴィラはもちろん、ライフスタイルホテル、ブランデッドレジデンス、高級コンドミニアム、アートギャラリー、インターナショナルスクール、クラブハウス、迎賓館など様々なプログラムをもつユニークなオーダーが続いています」
「とりわけラグジュアリーホテルのプロジェクトではデザイン性や実用性だけではなく、長期的な不動産価値やサステナブルな観点など、総合的かつ専門的な知見が必要になります。ラグジュアリーホテルに求められるトレンドはここ数年で変化し、『レジデンシャル』な要素を求めるようになってきました。以前はインテリアデザイナーがつくる憧れや非日常性が求められましたが、近年では建築家がつくる本質的な『居心地』が求められ始め、住宅における究極の居心地の良さを追求してきた APOLLO にもラグジュアリーホテルの設計依頼が相次いでいます」
ーー黒崎さんの目から、今の建築の全体的なトレンドはどのように見えていますか?
「私が建築設計の世界に足を踏み入れてから、今ちょうど 3 つ目の『時代の変わり目』を見ていると感じています」
「私が大学時代に見ていた建築業界は、国や自治体とのつながりがとても深い存在でした。高度経済成長期の日本には勢いがあり、国や自治体が様々な活動を主導した時代でしたので、建築業界もそれに並走していました。1980 年代から 1990 年代前半を振り返ると、当時を代表する建築の多くが国や自治体が主導していたのではないでしょうか」
「そこから 2 つ目の転換期は、バブル経済崩壊後に国や自治体の力が弱まり、相対的に民間企業が力をつけてきた時期でした。建築の主役が政治から経済へとドラスティックに移行し、大手企業や有力経営者たちが次第に建築界に影響を与え、大規模の街づくり等でも強い推進力を生み出すようになりました。そのような変化を強く感じたのが、1990 年代中盤から 2000 年初頭だったと思います」
「そして、2010 年代中盤以降から徐々に感じはじめたのが 3 つ目の転換期。新時代における建築のキーワードは『ニューリッチ』『サステナブル』『パブリック』だと感じています」
「近年では有力企業に加え、突出した力を持つ起業家や投資家などの『ニューリッチ』にも大きな資金が集まり始めています。彼らのような『強い個』としてのプレーヤーたちが抱く社会的関心は大きくて深いため、我々建築家側もそれに十分に応えていく必要があると感じています。例えば『教育』や『地域』、『環境』などが関心の一例で、広大な敷地を利用して教育を軸に街づくりを行うケースなども増えてきました。建築単体ではなく事業全体を捉えることが益々大切になっていくでしょう。
また、彼らは短期的な利益よりもむしろ社会資本や共同体の形成など、『サステナブル』について長期的に考えています。これが 2 つめのキーワードです。1 ~ 2 年という短期ではなく、50 ~ 100 年 と長期の目線で考えるのがクライアントの本流となったため、建築家はその旗振り役として環境への配慮や建築の本来の在り方、持続可能な社会との関係性等、広域な視座で建築を考え、先導していく必要が出てきています。言い換えるなら、『サステナブル』に対する様々な答えを提示できる可能性こそが、現代建築界の最大の特徴ではないかと思うのです」
「 3 つ目のキーワードは『パブリック』です。富裕層住宅は従来のプライベートなものから、社会を取り込むパブリックなものにかたちを変えながら進化しています。我々はこれまで 22 年に渡り様々な住宅を設計してきましたが、『内に閉じたプライベートなプログラム』から『外に開けたパブリックのプログラム』を求めるクライアントが増えてきていることを実感しています。例えば、家族のためだけの住宅ではなく一部をコミュニティとして開放したり、自社の事業の一部として住宅をとらえる建築の要望なども少なくありません。また、『サステナブル』であることと『パブリック』であることは密接に結びついており、その両方の関心を強く持つ『ニューリッチ』と共に、今後どのような建築を創っていけるかというのが、今後強まる建築の流れであり、建築を超えた共同体づくりを目指す我々 APOLLO の使命でもあると感じています」
富裕層住宅にも「パブリック」なプログラムが求められる
「 30 ~ 40 代のニューリッチの台頭を感じる一方で、30 ~ 40代で『ラグジュアリー』や『ハイクラス』を数多く手掛ける建築家が増えていないことを危惧しています。誤解していただきたくはないのですが、これは建築家の力量が不足してきたいうわけではなく、むしろ経験的、構造的な問題が大きいと感じています」
「この数十年はアトリエ建築家という概念のもと『日本の建築家がバラバラになった』時代であったと感じています。建築家は独立し、個人的な成果をつくることがゴールであるという常識が広まりました。もちろんそれによって生まれた素晴らしい建築は沢山ありますが、構造的に大きな問題を生み出したとも感じます。一つは、『建築家が及ぼす影響力が分散し、相対的に小さくなってしまった』ということ。どれだけ優秀な建築家でも一人で与えられるインパクトや解決できる社会課題は限られます。優良企業はジャンルや垣根を越えて組織やチームを拡大しているのにも関わらず、建築家は個の名称で戦うことが依然として多く、グローバルな時代では戦えない状態になっています。建築を次なるスケールやレベルに移行させるためには、建築家それぞれが個を一度解体し、個性の集団ではなく真の意味での共同体として力を合わせていかなければいけない、そんな時期に来ていると強く感じています」
「そしてもう一つの課題は、『高度情報化により真の意味での知識や経験が共有されにくくなってしまった』ことが挙げられます。建築家としての学びの大半は個々のアトリエ内部でのみ受け継がれるという、極めて閉じた関係に集約されていることから、世に存在する数多くの建築の知見や経験に対して、リアルかつダイレクトに触れることができていません。これはアトリエが抱える最も大きな構造的課題だと感じています」
「 30 ~ 40 代ニューリッチのクライアントたちには、同じバックグラウンドや共通言語をもつ同年代の建築家が設計提案していくことで、より良い建築が生み出される可能性があると感じます。しかし、ラグジュアリーやハイクラスの建築には、高度な生活経験や設計ノウハウが極めて重要になるため、本質的な部分を体感できているかどうかが鍵になります。今後 APOLLO では、30 ~ 40 代世代の建築家とのコラボレーションを積極的に増やしながら、これまで培ってきた富裕層住宅のノウハウを次代の建築家に還元していきたいと考えています。以前にスペインにある世界的な有名レストラン『エル・ブリ』が、自社のオリジナルレシピを一般公開し話題になったことがありましたが、建築の世界も長期的な文化を考えるなら、アトリエのリソースをオープン化していく必要があるのではないかと感じています。私たちの知見や経験を積極的に公開することで、バラバラになってしまった建築家の共同体をつくり、我々も含めて更なる大きなチャレンジの場と体制をつくりあげていきたいと考えています」
「ラグジュアリーやハイクラスの建築には、高度な生活経験や設計ノウハウが重要になる」
ーーそのような背景もあって、アーキタッグの活用も含めて外部パートナーとの協働を積極的に実践されているんですね。
「はい、アーキタッグとは去年から色々と協働を重ねてきています。アーキタッグを通じて若手・中堅建築家と話す機会も増えましたが、彼らと関わって改めて感じたのは、有名アトリエなどで実績を積み、独立を果たした実力のある建築家でも、最初の数年は案件の獲得においてかなり苦労するだろうということです。実績が実績を呼ぶのが建築設計ですから、独立してゼロから実績をつくるのはとても大変な道のりだと改めて感じました」
「今後 APOLLO としては、案件に恵まれない若手・中堅の建築家などと積極的に組んでみたいと思っています。私たちから提供できるナレッジは喜んで共有していきたい。今のところアーキタッグではプロジェクト型やスポット型の協働しか実践できていませんが、もし可能なら年間契約などの形も試してみたいと思っています。複数の案件を通してコラボレーションをすることでより多くの知見を共有しながらコンビネーションを上げられますし、素晴らしいパートナーとは末永くお付き合いをしていきたいと考えています」
「アーキタッグは、時代や課題にぴったり合った新しい仕組みだと感じます。これまでの建築家は、アトリエで修行した後にはすぐに独立を迫られていましたが、準備期間が足りないように感じています。実際に設計の実務を積んだからといってすぐに事務所経営ができるわけではありません。営業や組織運営などを学ぶ必要もありますし、人を雇うにも安定した収益をつくらなければなりません。独立直後の建築家は実務と並行してやるべきことが実に多く、実際には苦労は絶えないのではないでしょうか。アーキタッグは、そんな若手建築家たちにとって修行と独立の間にある『第三の選択肢』であると感じています。独立後はアーキタッグを通じて経験やネットワークを広げたり、経験を学びながら堅実な収益を得たり、『完全独立』するまでの良い滑走路になるのではないかと感じています」
ーー最後に、今後の APOLLO さんの展望や方向性について教えてください。
「すでにアーキタッグを通じて数名の若手・中堅建築家とコラボレーションをさせてもらいましたが、とても良い巡り合わせを提供してもらえました。アトリエで確かな実績を積んで独立された方々など、アーキタッグには『優秀な方が多く登録している印象』があります。仕事を依頼しても、すぐに精度の高い能力を発揮してくれる建築家の方々ばかりです」
「すでにサポートをしてもらっている案件もあったり、良いお話ができて今後のコラボレーションを検討している建築家さんもいたり、普通に活動しているだけではなかなか出会うことができない新たな出会いがあり、アーキタッグはとてもありがたい機会になっています。APOLLO としても、今後は社内の拡張を行いつつも、『あえて』積極的に社外の方々とのコラボレーションを意識していくつもりです。実施設計など実務面でのサポートをお願いするのはもちろんですが、企画段階からアイディアを考えるのが得意な建築家とも協働していきたいですね。様々な特性を持つ建築家と積極的にコラボレーションしていくことで APOLLO としてもクライアントに提供できる価値も拡大しますし、タッグを組むことで Win-Win な関係、クライアントも含めると三方良しな取り組みになると考えています」
「APOLLO では現在『APOLLO COMMONS』という構想が進行しています。設計事務所の枠を超えて、『プロジェクト』や『課題』に対して建築家やパートナーが集まる『共同体』こそが一番力を発揮できる。APOLLO がその旗振り役またはきっかけになり、多様なプロフェッショナルと協働していく『共同体としての COMMONS』をつくり、建築を通じ、様々な社会課題を解決していきたいと考えています」
「先にも述べた通り、ラグジュアリーな建築はとりわけ実績が実績を呼ぶ領域です。また、ラグジュアリーの『LUX』という概念は、豪華や高額といったことではなく、『人や世の中に光を当てる存在そのもの』を指す言葉であり、特権階級のみではなく、全ての人々が生活の中で自然に感じるものであると考えています。APOLLO が若手・中堅の建築家とコラボレーションを図り、ラグジュアリー案件の経験のある若手建築家が増えていくことで、日本の建築界全体の底上げと真の意味での生活文化の継承ができればと考えています。私たちとの協働に興味を持ってもらえる方は、ぜひ気軽に声をかけてもらえれば嬉しいですね」
多様なプロフェッショナルと協働する構想「APOLLO COMMONS」
(アーキタッグ運営スタッフより)
インタビューをさせていただいた APOLLO さまと、アーキタッグを通じて実際にタッグを組まれたシン設計室・高橋真理奈さまからコメントをいただいていますので、あわせてご紹介いたします。高橋様は、アトリエ設計事務所での経験を経て去年独立された若手建築家の方です。
「今まで関わったことがない、ラグジュアリータイプの住宅に関われてとても勉強になっています。独立したばかりの中で、建築家として設計事務所経営をしている黒崎さんの仕事の内容や方法を見られるのは、とても貴重な機会です」
アーキタッグでは引き続き、APOLLO さまとタッグを組みたい建築家の方を募集しています。興味のある方は、下記リンクから詳しい情報をご覧ください。
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簡単な面談をして、アーキタッグの契約書テンプレートでラクに手続きを済ませたら、タッグを組んで案件に取りかかることができます。
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